犬の飼育頭数が2012年から減少傾向にある一方で、今、猫ブームは全盛を迎えている。ペットフード協会によると、犬と猫の飼育頭数は、ほぼ同数になったという(2016年10月発表)。猫と暮らす人が増えている中、彼らの読めない気持ちや行動などを“猫目線”で説き、今までの猫本とは違う良質な参考書と話題の『猫の學校』(ポプラ社)。
著者は、5万匹の猫をお世話してきたキャットシッター歴25年の南里秀子さん。そこで、猫の生態や習性、防災や引っ越し、病院の選び方や介護、キャットフードの選び方、猫との暮らしで学んだ大切なことなど、本当に必要で今すぐ役立つ猫知識が網羅されている同書から、「猫のプロ」南里さんに猫とうまく暮らすコツを教えてもらった【全2回・前編】。
――“十猫十色、1000匹いたら1000通り”との言葉が印象的でしたが、5万匹見てきてもそんなに違うものですか?
みんな違いますね。人間と一緒です。おおかたの猫の本では「猫ってこういうもの」と枠にはめていますが、シッティングの現場では本当にいろんなタイプの猫がいて、ほとんど通用しないんです。たとえば、うちの猫の水分補給はきゅうりなんです、というお客様がいたり、そういう不思議なことがいっぱい起こるので、これまでの知識を一旦捨てて、目の前の猫を見るしかないなと。同じ猫でも今日と昨日でも違うし、対する相手でも違いますから。
――猫はどんな環境・人を望みますか?
猫にとって、“人は環境の一部”なんです。彼らはテリトリーに重点を置く動物なので、猫にしたら人に飼われているのではなく、 “自分のテリトリー内に人がいる”という認識なんですね。人の方が猫目線を持たないと、この食い違いは拡大していきます。
猫から好かれるコツは、こちらから働きかけるのではなく、向こうから何か要求してきたときにすぐに応じること。一緒に暮らすためには、彼らのペースを尊重できる気持ちの余裕が求められます。無理強いしない。嫌がることをしない。そして、猫によって何が嫌かは違うので、それを察する力も必要です。
――放っておいてあげるけれども、無視せず必ず反応することが大事と。
『猫の學校』にも書きましたが、猫の行動って児童心理にほとんど当てはまるんですよ。4、5歳くらいの子供って「お母さん、お母さん」と言っているのに反応しないと、注意を引くために物をひっくり返したりしますよね。でも「なあに?」って応えれば、自分に関心を向けてくれているのがわかって一旦落ち着く。猫も同じなんです。ただ、必要に応じて注意を向けることは大切ですが、猫は自立した精神の持ち主ですから、過保護や過干渉にならないように気をつけましょう。
◆初めての猫、どう迎える?
――猫は「2匹で」とおすすめされていますが、その理由は?
長年、外には出さないインドアキャットとその家族を多く見てきた経験から、人と猫がバランスよく暮らすには2匹がいいと思うようになりました。順応性に優れて自立した単独生活の動物である猫を、人はその見かけのかわいらしさからか、ややもすると「私がいなければこの猫は生きていけない」と勘違いしてしまいがちです。一方、猫は人に対して「このテリトリーで私が一番」を主張して、早朝のごはん催促やトイレ以外の場所におしっこするなどの行動で関心を引こうとします。そうすると人は何でも猫の言うとおりにしなくてはいけなくなってしまう。人と猫が1対1で暮らしている家では、ほとんどの人が猫の“下僕化”しています。
1匹だけだと猫が専制君主になったり、人にストレスを発散するといったことがあり、人の方も留守番させることに引け目を感じたり、過保護・過干渉になったりしますし、猫が亡くなったときのショックも大きいです。でも、2匹なら猫としての社会性が出て適度のストレスで免疫力が上がる、遊びなどで運動量が増える、猫同士の毛繕いができる、暖をとれるという利点があり、人の方も放っておいても平気になるとか、2匹を比較して異変を見つけやすいなど、双方にとってメリットが多いんです。
――初めて猫を迎えるなら、子猫よりも成猫がいい理由とは?
子猫はまだ性格が定まっていないので、どんなふうに育つかわからないですよね。初めてでとても手間のかかる猫がくる可能性だってあります。問題行動が何年もずっと続いたら人はノイローゼになります。その挙句、猫を捨てようなんて思ってしまったら、両方とも不幸です。2歳~12歳の成猫は心身共に安定して個性も出てきますから、初めて猫を迎えるなら、自分の好みやライフスタイルに合った成猫がおすすめです。
猫に甘えてほしいと思うなら、スキンシップの好きなタイプを選べばいいし、反対にツンデレな猫が好きな人だっていると思うんです。猫が甘えっ子の場合は、人が家にほとんどいないとストレスになりますが、逆にそれを好む猫もいます。大事なのは組み合わせ。雄と雌でも違うし、種によっても違います。野性味が強い種は、去勢をしていてもテリトリー意識が強いのでスプレー行為を続けることもあります。ですから、まず、自分はどういう猫を望んでいるかを考えてみてください。
◆猫の敏感さを学ぶ
――猫は人の気持ちをとても読むそうですね。マイナスな感情を出されるのも嫌がると。
人の感情や気持ちに敏感なので、こちらの不安や緊張が猫の健康に影響を与えるようなこともあります。猫たちは自分のテリトリー内で、人間に不快な感情を発散されることを望まず、いつも平和で安全快適であってほしいのです。猫は自分を映す鏡だと考えたらわかりやすいと思います。もし近寄ってこなかったら、「私ちょっとイライラしてるのかも。ごめんね、気づかせてくれてありがとうね」といった受け取り方をすると、猫との関係が変わってきます。
――首の鈴も猫にとっては苦痛なのですね。
猫は五感の中では耳が一番発達していて、人には聞き分けられない6~10万Hzの可聴域を持っています。よく所在確認のために猫の首に鈴をつけるケースがありますが、猫がどんな気持ちになるか考えてみましょう。彼らが一番キャッチする音域は、子猫の鳴き声です。高い音域を好むので、男性よりも女性の方が好かれやすいんです。
――匂いはアロマや香料の強いシャンプー、芳香剤もだめなんですね。
アロマの精油の成分が、どうも猫の体の中で代謝できないようです。私達も香水の強い匂いは嫌な匂いであるように、人間の何倍もの嗅覚を持つ猫にとって、匂いはある意味暴力になりかねません。お化粧の強い匂いや、タバコも猫はだめですね。ヘビースモーカーの家の猫は喘息になることもあります。乳幼児と同じなんです。
◆目指すは「対等」
――猫ブームについて思うことは?
あまりに過剰なブームは早く終わってほしいと思いますね。猫は人間のために存在する動物ではなく、猫は猫として生きているので、人間が勝手に癒しを求めるのは違うと思います。それから、どうしても今みたいなブームになると、やたらに猫を大事にして「猫様」にしてしまう人が増えるでしょう? 人の方も「下僕」になる方が簡単なんです。でも、猫と人は対等であるべきだと私は思います。とはいえ、この対等というのが、結構難しいんですけどね。
「ペット」という言葉もそうですが、かわいがるとか、世話をするという言い方は、全部上から目線ですよね。逆に、何でも猫の望む通りにして振りまわされるのも違うと思うんです。猫様のために家を全部改造したり、猫は1缶360円の高級缶詰を食べているのに、自分は98円のカップ麺で済ませているとかね。人間が成熟して猫と対等な関係でつきあえるようになったら、お互いの暮らしの質も良くなると思うんですよ。
――難しい「対等」はどうやって目指したら?
「擬人化」ではなく「擬猫化」してみることですね。よく「擬人化」して人間の気持ちを投影して「ひとりぼっちでお留守番させて可哀想~」などと思ってしまいがちだけれど、それは猫の習性を理解せずに感情移入だけが過剰になっている状態だと思います。逆に自分が猫だったらどうされたい?と考えてみましょう。
――留守番もおすすめですか?
そうですね。非日常を経験した猫は、精神的にも強くなってきますから。元気な猫だったら、1泊2日くらいは放っておいても大丈夫。基本的に放っておいてほしい動物ですし、環境の変化が嫌いだから、ペットホテルではなく家にいたいんです。もし預ける場合は、猫にそれを伝えることが大切。大抵の人は猫に何も説明しないで預けに行きますが、猫からしたら、自分のテリトリーがあるのに預けられる理由がわからないんですよね。だから、猫にちゃんと説明するようにしてほしいです。
――南里さんは猫扱いせず、人と話すように対等に会話をしていますよね。
はい、人に話すのと同じように話します。猫にわかるはずはないというのは人の思い込みです。猫には私たちの感情も意思も伝わりますから、コミュニケーションを上達させることは可能なんです。でも、ちゃらちゃら語りかけてはだめ。猫は家人から尊重されているかどうか、ちゃんと感じ取る動物ですから、真剣に、対等の意識で話します。「こういう理由で病院へ行きます。痛いことはしないですぐに帰ってくるよ」とか、「病院に行って何でもなかったら私が安心できるから協力してね」というふうに話します。もし猫にとって必要なら、自分からキャリーケースに入ってくれます。言語の違う人とでも通じ合えるように、彼らは“雰囲気”で理解するんですよ。
【南里秀子(なんり・ひでこ)】
1958年生まれ。1992年、猫専門のシッティングサービスを創業。猫の生涯保障部門を開始し、「猫の森」としてシッター育成や猫に関するセミナーを展開している。2009年に世界初、キャットシッターの視点から猫について解明する『猫の學校』セミナーをスタート。著書に『猫の森の猫たち』(幻冬舎文庫)『猫と暮らせば』(小学館文庫)『猫と人と古民家と』(幻冬舎)など。
(出典 news.nicovideo.jp)
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